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東京地方裁判所 平成9年(行ウ)89号 判決

埼玉県新座市栄二丁目三番一六号

原告

伊藤謙二

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被告

特許庁長官 荒井寿光

右指定代理人

本田敦子

早﨑士規夫

長谷川実

笛木秀一

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告が平成七年六月二九日付けで原告に対して行った昭和五九年特許願第一一七三〇六号の出願無効処分を取り消す。

二  被告が平成九年二月二八日付けで原告に対して行った第一項記載の出願無効処分に対する異議申立てを棄却する旨の決定を取り消す。

第二  事案の概要

一  基礎となる事実

1  原告は、昭和五九年六月七日、発明の名称を「ブレーキ」とする特許出願(昭和五九年特許願第一一七三〇六号。以下「本件出願」という。)を行った(乙第四号証)。

特許庁審査官は、本件出願につき、原告に対し、平成四年七月一三日付けで拒絶理由通知を行った。原告は、右拒絶理由通知を受けて、特許庁審査官に対し、平成四年一〇月八日付けで手続補正書及び意見書を提出したが、特許庁審査官は、本件出願につき、同年一一月二七日付けで拒絶する旨の査定をした(争いがない。)。

2  原告は、右拒絶査定を不服として、被告に対し、平成五年二月八日付けで審判を請求し(乙第一号証)、さらに、同年六月一六日付けで右審判請求の理由を補正する旨の手続補正書を提出した(乙第二号証)。

原告の右審判請求に対し、特許庁審判官は、本件出願について、平成六年一月一一日付けで出願公告をすべき旨の決定をし(乙第三号証)、同年六月八日出願公告を行った(乙第四号証)。

さらに、特許庁審判官は、平成六年一二月一四日、本件出願について、原査定の拒絶理由によって拒絶することはできず、他に拒絶すべき理由を発見しないとして、原査定を取り消し、特許をすべき旨の審決をし(乙第五号証)、右審決の謄本は、平成七年二月一一日、原告に送達された(乙第六号証)。

3  右審決の謄本が原告に送達された後、昭和六〇年法律第四一号による改正前の特許法(以下「法」という。)一〇八条一項に規定する期間内に、原告から所定の特許料が納付されなかったため、被告は、法一八条一項の規定に基づいて、平成七年六月二九日付けで本件出願につき無効とする旨の処分(以下「本件処分」という。)をし(乙第七号証)、本件処分の謄本は、同年八月二三日、原告に送達された(乙第八号証)。

4  原告は、本件処分を不服として、被告に対し、平成七年一〇月一七日付けで行政不服審査法に基づく異議申立てを行った(乙第八号証)。

これに対し、被告は、平成九年二月二八日、原告の右異議申立てを棄却する旨の決定(以下「本件決定」という。)をした(乙第九号証)。

二  争点

1  本件処分が違法か否か。

2  本件決定が違法か否か。

三  原告の主張

特許庁審査官は、本件出願につき、再度拒絶理由通知書をもって手続の補正を求めるべきところ、直ちに拒絶査定をしたが、右拒絶査定は、不公平な審査に基づき(憲法一四条違反、国家公務員法二七条違反)、かつ職権濫用であって(刑法一九三条)、違法である。その結果、原告は審判請求をしなければならなくなったが、同じ時期に本件出願のほか、昭和五九年特許願第九九三六四号及び同年特許願第一四八二九四号の計三件が続けて審判請求になるのは職権濫用の証左である。そして、原告は、本件出願につき審決によって特許査定を受けたものの、審決の事務手続が初めてであるうえに、当時勤務先であるサイエンス株式会社から絶え間ない攻撃を受け、特許管理を十分に行えない状況にあったため、誤って期限内に特許料を納付できなかったものである。

よって、原告は、本件処分及び本件決定の取消しを求め、特許料の支払いを希望する。

四  被告の主張

1  被告は、原告から法定の期間内に所定の特許料の納付がないことを理由に本件処分を行ったもので、右処分は適法である。

2  原告は、本件決定の固有の瑕疵を何ら主張していない。

第三  争点に対する判断

一  争点1について

1  法一〇七条一項は、「特許権の設定の登録を受ける者又は特許権者は、特許料・・・・を納付しなければならない。」、法一〇八条一項は、「前条第一項の規定による第一年から第三年までの各年分の特許料は、特許をすべき旨の査定又は審決の謄本の送達があった日から三十日以内に一時に納付しなければならない。」、同条三項は、「特許庁長官は、特許料を納付すべき者の請求により、三十日以内を限り、第一項・・・・に規定する期間を延長することができる。」、法一八条一項は、「特許庁長官は・・・・特許権の設定の登録を受ける者が第百八条第一項・・・・に規定する期間内に特許料を納付しないときは、その手続を無効にすることができる。」旨規定している。

したがって、特許権の設定の登録を受ける者は、特許をすべき旨の審決の謄本の送達日から三〇日以内に、定められた特許料を納付すべきであったところ、平成七年二月一一日、本件出願について特許をすべき旨の審決の謄本が出願人たる原告に送達されたのにもかかわらず、原告が右送達の日から三〇日以内に、所定の特許料の納付をしなかったことは、前記第二の一3認定のとおりであり、その後も特許料の納付をしていないものと推認される。

よって、被告は、法一八条一項に基づき本件処分を行ったものであるから、本件処分は、法の規定に基づく適法な処分というべきである。

2  原告は、本件出願に対する特許庁審査官の拒絶査定が不公平な審査に基づくもので違法である旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はないうえ、拒絶査定の違法性は本件処分の適法性の問題とは明らかに無関係な事情である。また、原告は、審決の場合の事務手続が初めてであるとか特許管理を十分に行えない事情があったなどと主張するが、仮にそのような事情があったとしても、原告が期限内に特許料の納付ができなかったことについての個人的な事情を述べたものにすぎず、本件処分を違法とする事情とはなり得ない。

したがって、原告の主張は、いずれも本件処分の違法性を基礎付け得るものとはいえず、明らかに失当である。

二  争点2について

行政不服審査法に基づく異議申立てを棄却する決定について、取消しが認められるためには、原処分の違法事由とは別に、当該決定自体に固有の瑕疵が存することを要するところ(行政事件訴訟法一〇条二項)、本件において原告は、前記第二の三記載の事情を主張するのみで、本件決定に固有の瑕疵を何ら主張していない。

したがって、本件決定の取消しを求める原告の請求は主張自体失当である。

三  結論

よって、原告の本訴請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高部眞規子 裁判官 榎戸道也 裁判官 大西勝滋)

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